妄想バレンタイン《短編》

本当は目の端がヒクヒクしていたが、優しい俺は菊地に教えてやった。


「そういえば、今日バレンタインデーじゃん!モテる男は辛いねぇ」


俺は「そういえば」という言葉をつけて、自分も今気付いたようにアピールすることを忘れなかった。


菊地は相変わらずボーッとして「あぁ、そうか」と興味なさそうに言った。


そしてチョコレートを取り出さずに扉を閉めると、大きなアクビをして、怠そうに歩き出した。



「おっおい!チョコレート、持っていかないのかよ」


「帰りの時でいい」



菊地は面倒くさそうに答えると、寝癖のついた頭をポリポリと掻いた。



普段ボーッとしてたって、モテる奴はモテるんだよなぁ。


いやいや。


俺だって、気は抜けないぞ。


いつ、どこで、チョコレートの攻撃に会うかわからない。


受け取る時は、あくまでさりげなく。


嬉しそうな顔をしてはいけないんだ。


そう…。


菊地のように。