十五日、土曜日。

気付けば、その日は訪れていた。

「彩音、出掛けるんだっけ?」

午前七時。

母は靴を履きながら言った。

「うん。

九時からだけど。

お母さん、鮎川(あゆかわ)さんと演劇見に行くんだっけ。」

「そうよ。

じゃぁ、行ってくるね。

あ!

八時になったらお父さんとお兄ちゃん起こしといて。

今日はゴミ出ししてもらうんだから。」

「わざわざ二人で行かなくてもいいでしょ?」

「いいの!

家族の絆はこういうところから深まるんだから。」

「なんか違う気がするけど。」

「何か言いましたか?」

「言いました!

けどどうでもいいです。

早く行ってください!」

「あんたね、
そういう時は『いえ……』って可愛く言うの。

どこの世界に『言いました!』なんて言うバカがいるの!」

「ここにいるっつの。

いいから早く行きなよ!

鮎川さん待ってるよ!

ほら、はい!

行ってらっしゃい!」

押し出すようにして見送った。