マイワールド

「中栄さん!」

後ろから誰かが呼んだ。

振り返ると、
あの獣医師が車の中から中栄を呼んでいた。

「乗ってください!」

そう言われ、中栄は全速力で車まで向かった。

乱暴にドアを開け、助手席に座った。

「川村動物園だ!

飛ばせ!」

車が壊れるぐらいの声で言った。

「はい。」

獣医は申し訳なさそうに頭を軽く下げ、
アクセルを踏んだ。


中栄は呼吸を整えた。

「タオル、
そこにありますから。」

「雨は降ってなかったから。」

「……すみません。」

噛み合わない会話だが、
なんとか通じ合っていた。

「あのさぁ、おまえ。」

呼吸が落ち着いてきた所で、
中栄は低い声で言った。

「島崎(しまざき)です。」

「あぁ……。」

いつの間にか上下関係ができた。

「なんですか?」

「約束……覚えてんのか?」

「覚えてます。」

「やぶってんじゃねぇよ!」

シートベルトが無ければ飛び掛かるところだった。

「守りました。」

「は?」

「『できるかぎり、努力します。』
僕はそう言いました。

守りました。」

「ふざけてんのかよ!

なんだよ、それ……。

おまえの『できるかぎり』って、
そんなもんかよ?」

「こんなもんです。

すみません。

自分に甘えたくないので、
言い訳はしません。」

「……」

中栄の目が充血した。

「泣いていいですよ。

でも、運転中なんで飛び掛からないでください。」

島崎は冷静に言った。