ある日、中栄は四角石動物園で深夜まで残業をしていた。
優菜も同じだった。
「大丈夫なの?
最近よく徹夜してるみたいだけど。」
優菜が、何かの資料をまとめながら言った。
「なんかさ、
余計なこと考えるよりこうしてた方がいいと思って。」
「残業代もらえないのに?」
「金じゃないって。」
「わかってる。
今のは冗談。」
「……。」
優菜がからかっても、
中栄はそう簡単に乗ってこなかった。
中栄は日記帳を広げた。
「日記……つけてるの?」
優菜が聞いた。
「あぁ。
なんか、一度書いたら書かないのが気持ち悪くなっちゃって。」
「わかるよ、それ。」
「でもさ、なんか物足りないっていうか……気持ちを言葉にするって、
難しいよな。」
「わかる。
気持ちって、言葉にできるほど単純じゃないからね。
それってさ、喧嘩とかによく似てない?」
「『喧嘩』?」
「うん。
あたし、中学生の頃、
よく友達と口喧嘩したんだよね。
でもさ、『言いたいことって、これじゃないなぁ』ってよく思ってた。
どんなに相手が黙っててあたしが言いたい放題怒鳴り付けても、
全然すっきりしなかった。
『なんで思ってもいないこと言ったんだろうな』って。
でも、
『じゃぁ本当に言いたかったことは?』
って聞かれたら絶対答えられなかっただろうね。
頭では答えられてるのに、
口では何も言えない。
パッと言えるほど、私の言葉は豊富じゃなかったから。」
「……やっぱそうだよな。
日記って意味ないのかな……?」
「そんなことないよ!」
「……?」
「うまく言葉にできなくたって、
全部心にためとくよりいいよ。
日記にすれば、
あんたの場合……五十パーセントぐらいはすっきりするはずだから。」
「……ありがとう。」
中栄は無意識に優菜に見とれてしまった。


