そんなある日のことだった。
「ネイル!
朝飯だ!」
中栄が誰もいない動物園でネイルを呼んだ。
――その時、奇跡は起きた。
ネイルが……俺の方に歩み寄って来たのだ。
中栄は、目を丸くして口を開けたまま、
ネイルに近づいた。
中栄とネイルの間には、
『柵』という名の境界線がある。
中栄はそれを壊してやりたくなった。
本当の笑顔を浮かべて、柵を思い切り殴った。
手は真っ赤に腫れたが、
彼は全く気にしなかった。
――もしかしたら、ネイルは腹が減っていただけなのかもしれない。
けれど、俺には、
あいつが心を開いてくれたとしか思えなかった。
「だよな。おまえが頼れるやつって、
俺だけなんだよな。」
真っ赤に腫れた手で肉をやった。
――俺の心の何かが変わった……。
大げさな表現ではない。
本当にそのとおりだった。
中栄は決心したような目をしてから立ち上がった。
すると、なぜか優菜が目の前に立っていた。
「なんでいんだよ?」
中栄は無愛想に目をつぶった。
「よくわかった?」
優菜は珍しく優しい声で言った。
「は?」
「この子にはあんたしかいないの。
こんな檻の中に閉じ込められてるんだから、
頼るやつが必要でしょ?
何もしないよりあんたが精一杯愛情を注いだ方が、
よっぽどこの子は幸せになれるよ。」
中栄は涙が出そうになった。
だが、優菜の励ましを素直に受け入れなかった。
「どうも。」
それだけ言って、
その場を立ち去ろうとした。


