あれからどれくらい経っただろうか。
我に帰った時、
私は自分の部屋のベッドでうずくまっていた。
「彩音、朝ごはん、食べないの?」
あれだけ泣いていた母も、
今はいつもどおりの顔で部屋に入ってきた。
「いらない……。」
私は毛布をかぶった。
「十時までには来なさいね。」
「……。
うん。
……。」
母は出ていった。
母は強いと思う。
きっと今は私のために笑顔でいてくれたのだろう。
私にそんな余裕はない。
「はぁ……。」
涙がこめかみを伝って枕に落ちる。
もしこれを『美しい』というのなら、それは間違いだと思う。
クリのいろいろな仕草が溢れてくる。
帰ってくれば、必ず足に顔をすりつけてくる。
抱けば、ゴロゴロと喉を鳴らす。
私にとって、クリは癒しの存在だった。
何かを悩んでいても、
とりあえずクリを見れば落ち着いた。
『かわいい』以上のかわいさがそこにはあった。
どうしてクリがいてくれたありがたみを、
今感じているのだろう。
『老衰死』――。
幸せではないか――。
何をそんなに責めている?
私が産まれる二年前にクリは産まれた。
『クリは野良猫で、それを俺が拾ってきた。』と兄が言っていた。
それにしてはよくなついていた。
十六――。
私なら高校生活を楽しんでいる頃だろう。
クリはどれだけ急いで生きていたのだろうか。
『命あるものすべていずれは死ぬ』――。
わかっている。
そんなこと、毎日のように考えていた。
でも、受け入れられない。
「わかんないよ……。」
声を絞り出した。


