「裕也に……初めて名前で呼ばれたんだ……。
『相川』って。」
家に帰ってから、
母に言ってみた。
「『裕也』って友達?」
母はテーブルを拭きながら言った。
「彼氏。」
なんとなく言ってしまった。
「そう。」
母に驚いた様子はなかった。
「何で人間って利用とかするのかな?
変な動物……。」
「生きることに必死じゃないからじゃない?
全ての人間がそうだっていうわけじゃないよ。
でも、あんた達中学生はそうだね。」
母は冷静に答えた。
「……?
どういうこと?」
「本当に死にそうな時には普通、
助け合おうとするはずなんだよ。
例えば……もし無人島に三人で行ったとするでしょ。
食べ物がなくて死にそうな時、
誰かを見殺しにしようと思う?」
「わかんない。
想像しにくいから。
でも……たぶんそれはないと思う。」
「でしょ?
利用しちゃうのは、恵まれすぎてるから。
自分なら一番になれるって思ってるから。
人間って、楽な環境を望むけど、
気付かないうちに、道を誤っちゃうんだよね。」
「……。」
「『死ぬ直前に生きたいと言うのは、本音だ。
生きるのが辛くて死にたいと言うのは、勘違いだ。
本物の死はいずれやってくる。
だが、死にたいの死は、本物の死ではない。
死を通り越した所だ。
もしその死が楽な所だというのなら、
そこはあなたの居場所ではない。
ただの空間だ。
辛いあなたが求めるべき所は幸せだ。』」
私はハッとした。
それは『生と死の解き方』に出てくるセリフだった。
だが、私にはこの言葉の意味がいまだにわからない。


