その時――
知花が持っていた携帯電話が、ベンチに当たって地面に落ちた。
そして、俯いたまま動きが止まった。
「知花ちゃん…?」
愛美が声を掛けて近付こうとすると、知花はいきなり顔を上げた。
その表情を見て、さすがに私も愛美も後退りした。
知花は完全に白目をむき、口を一杯に開けて必死で立ち上がろうとしたのだ!!
その姿は、とても可愛かった知花と同じ人物とは思えない程醜悪で、まるで映画で見た死人が生き血を求めて彷徨う様と同じだった。
「知花ちゃん!!」
慌てて押さえようとしたが、唯一動く右手だけで弾き飛ばされた。
「千里、大丈夫!?
このままじゃあ――」
愛美はどうする事も出来ず、知花の様子を見ている事しか出来なかった。
駄目だ――
そんな長時間ではない筈。それまで、紐が切れない事を祈るしかない。
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