教室に入ると、クラスメイトは既に何も無かったかの様に平常に戻っていた。
昨日のテレビドラマやヒットソングの話題が溢れ、笑い声が教室に響く。まるで礼が死んだ事など、遠い過去の出来事の様に…
私はその光景に、いたたまれずに視線を落とした。
「栗原、来たのか」
声を掛けてきたのは、3ヶ月前から礼と付き合っていた前原 勇介。さすがに気落ちした様子で、何だかホッとする。
「前原は大丈夫なの?」
「だいぶ落ち着いたよ。でもさすがにな…」
前原はそう言いうと背を向け、私と同じ様に教室を見渡したあとで俯き、窓際にある自分の席に座った。
「知花…」
「うん」
私達2人も、後ろの出入口近くにある自分達の席に座った。
礼の席だった私の2つ前の机には、もう何も無かった。
私の記憶には、こんなに鮮明に礼の笑顔が焼き付いているのに…
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