直ぐに礼の母親は、携帯電話を胸の前に両手で大切そうに持って出てきた。
「契約は解除したけど、あの時の状態のままよ。
だけど、この携帯電話で何を?」
私は正直に言うべきか、何か適当に理由を付けるべきか考えたが、やはり事情を説明するべきだと判断した。
「実は3日前…沙菜ちゃんも、走行中のトラックに飛び込み自殺をして――
いえ、何とか一命は取り止めたんですけど、本人は自殺するつもりは無かったと言っているんです。
だから、礼さんもそうではないかと…」
私の話を聞き、礼の母親は俯いて小刻みに震え始めた。
私はその様子に、あの時の礼の姿を鮮明に思い出させてしまったかと、言った事を後悔した。
「あ…あの、すいませんでした」
しかし、礼の母親は首を横に振った。
「違うの…
自殺した事が、私達にとって一番悲しかったの。
だから、もし自殺ではないと分かれば、私達がどんなに救われるか…」
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