大きく溜め息を吐き目を開けると、ちょうど勉強机の上に乗っている本棚が目に入った。
何気無くその本棚の左端にある漢文の教科書を見た瞬間、以前礼が言っていた事を思い出した。
「…――漢文には、韻というのがあるじゃない。韻っていうのは、簡単に言うとリズムでしょ?
だからさ、韻を使いこなせる人は、書く文章で読む人を催眠状態にさせる事が出来るんだって。
まあそんな人は、現実的にはいないだろうけど――…」
古典や漢文が好きだった礼は、わざわざ隣の三春市の古本屋まで時々行っていた。
多分この話は、その古本屋で聞いた事なのだろう。
こんな話、全く信じていなかったけど…
もしこれが本当だとしたら、文章で人を操作する事が可能だ。
でも、そうだとしても、沙菜と私は全く同じ物を見ていたのだ。
それなら私も…
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