聞きなれた声に、私は顔を上げて振り向いた。
「な…なんで泣いてるの?」
「沙菜!!」
まだ朦朧としているものの、沙菜が目を覚ました。
沙菜の母親は気を利かせたのか、静かに病室を出て行った。
「知花…
心配性のあんたを泣かせちゃって、ごめんね」
「沙菜…」
私は沙菜の枕元に近付いて、顔の直ぐ横に座った。
「何かさ…
覚えて無いんだよね。
事故のショックなのかも知れないけど、歩道を歩いていた途中から、全く記憶が無いの…」
沙菜は顔だけ私の方に向けると、額と右の頬、それに顎にガーゼを貼られた状態で必死に笑顔を作ろうとした。
「私に、自殺する様な理由なんて無いのに、なんで車道に飛び出したんだろうね?
ごめんね知花…」
沙菜の表情が無理矢理作った笑顔が一瞬で崩れ、目に溜まった涙が目尻に沿って流れた。
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