私は走り去る救急車を、呆然と見送った。
一体何が起こったのか、全く分からなかった。私は何も出来なかった。
白いチョークでマーキングされたアスファルトが、私から礼だけではなく沙菜までも奪い去ろうとしているという現実を、冷たく突き付けていた。
あの時の沙菜は、普通ではなかった。
隣にいる私に、突然メールで遺書を送り付け、制止も聞かずに車道に飛び出した。
あんな事とても有り得ない。まるで、何かに取り憑かれている様な雰囲気だった。
人間なんて皆、自分勝手で他人の事など微塵も考えていないという事なのか…
それとも、私には2人の事など全く分かってなくて、2人も私の事など信頼していなかったという事なのだろうか?
現場検証が終わり正常に車が行き交う事故現場で、身動きすら出来ず日が暮れて暗闇に包まれても、その場を離れられずにいた――
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