やはり沙菜は、私の言葉など聞こえていない。
そして、見詰めていた携帯電話の画面を閉じると、凄い力で私の手を払い除けた。
「な――…何するの!!」
沙菜は依然として無表情のまま私に背を向け、車が高速で走り抜ける車道の方に歩き始めた。
異常だ。
まるで思考と行動を、何者かに支配されている様だ。
「駄目!!
駄目だよ沙菜!!
そっちは車道だから、ほら大型トラックも走ってるし…ねえ沙菜、危ないから!!」
必死で沙菜の右腕を掴み、歩道の奥へと引っ張ろうとするが、全く意に介さず考えられない様な力でグイグイと車道に向かって歩いていく。
駄目だ。
止められない――
次の瞬間、沙菜の右足が車道へと踏み出された。
大型の長距離トラックが、もう直ぐ目の前に迫っていた。
咄嗟に全体重を歩道の方にかけて倒れる程に、思い切り引っ張った――
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