店主が、春望を詠み終えた瞬間――
オレンジ色の暖かい光が、店主を包み込んだ。
その光の中で、店主の鬼の様に険しい表情が、徐々に穏やかになっていく――
あの金山 タズコさんが店主に宛てた手紙には、韻が使ってあったのだ。
そして韻の発動条件は、春望を詠む事…
韻の内容は、店主の表情を見れば直ぐに分かる。
店主は徐々に幼くなり、私達の目の前で8歳の少女に戻った。
誰にも裏切られず、何にも汚れていない無垢な心を持った少女に…
その時、私達は幻を見た――
いや、きっとあれは現実に起きた事なのだ。
少女が空に向かって両手を伸ばした時、優しい母の手が天から伸びてきて、少女を抱き上げた。
少女は満面の笑みを浮かべて私達を一度見ると、その手に抱えられたまま消えた。
消えた――…
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