「夫は逃がす事に精一杯で、手紙の事を忘れていたのです。
手紙を渡そうと、古本屋を訪ねたときには既に友人は他界し、娘さんは行方知れず…
そのまま、こうして手元に残ってしまったのです。
余程気になっていたのか、死ぬ間際まで、夫は手紙の事を言っていました…」
母親からの手紙…
「中身を見せて頂いても、構いませんか?」
「ええ、私も見ましたが、特に変わった内容ではありませんでしたよ」
私は封筒から手紙を取り出すと、内容を確認した。
確かに、娘を想う母親の心が書かれてはいるが、特に変わった内容ではない。
手紙を封筒に戻していると、英二郎さんの妻が私に言った。
「貴女達は、娘さんを御存知なのでしょう。申し訳ありませんが、その手紙を届けて頂けませんか?」
「はい、分かりました…」
私達は手紙を受け取ると御礼を言って、坂口さんの御宅を後にした――
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