奥の障子が静かに開き、住職がお茶を持って入ってきた。
「お待たせしました」
そして、私達の前に静かに座った。
「それで、私に何が聞きたいのですか?」
「あ…」
私達が話を切り出す前に、住職の方から尋ねてきた。多分、最初から私達が何をする為にここに来たのか、分かっていたのだろう。
「あの方の名前を御存知ですか?
それと、好きな歌を…いえ、何でも良いですから、情報が欲しいんです」
住職は私の表情を確かめる様に見詰めた後、ゆっくりとした口調で話し始めた。
「何か、余程の事情がある様ですね。その事情は、聞かない事にしましょう。
あの人は、自分の事は殆ど話さなかったので、私も知っている事は余りありません。
名前がチズ子だという事と、父親は太平洋戦争で戦死、母親も戦時中に亡くなり身寄りはいない…というくらいです」
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