私達は墓前で手を合わせた後、墓石を見た。
しかし妙な事に、家名が彫られていない。
不思議に思い墓石の側面を覗き込むと、そこにも「昭和19年8月1日 タヅコ 享年29歳」と彫られているだけだった。
「御本人から、名前だけという依頼があったので、そうなっているのですよ」
私の様子を見ていた住職が、そう説明した。
しかし、それは余りにも不自然だ。
「何か理由があるのですか?」
「さあ、私は聞いていませんし、私が立ち入る事でもございませんから…」
住職は変わらぬ表情でそう言うと、まるで私達がここに来た理由を見透かすかの様に言った。
「お茶でも飲んで行かれますか?」
私達は住職について行き、本堂へと上がった。
30畳はあろうかという広間の奥には仏像があり、私達を見下ろしていた。
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