「あ、あれじゃない?」
T字路を曲がった所で、愛美が前方を指差した。
その指の先には民家に隠れて全容は見えないが、寺特有の反り返った屋根が見えた。
私達はその黒い瓦屋根を目指し、路地を奥へと入って行った。
そこは古くからある街並みで、禅福寺もずっと以前からここにあった事を窺わせた。
「禅福寺…ここだ」
禅福寺は周囲を白い土塀で囲まれた、極一般的な寺だった。
所々黒く染みた木製の門から中を見ると、正面に本堂、右側に住職の住居があった。
外から眺めていても仕方がないので、私達は門を潜り本堂に向かった。
しかし、寺など普段来る事もない私達はどこに行けば良いのか分からず、境内を右往左往するしかなかった。
その時、不意に本堂の戸が開き、中から袈裟姿の住職が出てきた。
「何か、御用ですかな?」
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