私の事を思い出した古物屋の店主は、穏やかな表情に変わり、立て掛けてあった椅子を出した。

「まあ、座りなさい。

あの時は、大変だったね。あんたが時計を持って行ってくれた後、すっかり事故もなくなって…

いやあ、本当に良かったよ。誰も寄り付かないし、困っていたんだ。

それで…今日は一体何の用事だい?」


私は唾を飲み込み、ここに来た理由を話し始めた。

そうは言っても、事件の事などを詳しく説明する訳にもいかず、適当に話を作った。

「実は、あの古本屋のお婆さんが、好きだった曲を御存知ないかと思いまして…

確か、結構親しかったと聞いていたものですから」

「ああ、あの人ね。
そりゃあ、親しくはしていたが…

どうして、そんな事を聞くんだい?」


古物屋の店主が不思議そうに、私の顔を覗き込んだ。


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