この力の事を知っているのはマスターしか居ない。


マスターはそれを承知で僕を傍に置いている。


僕も自ら好き好んで他人の心を読んだりはしない。


いや、むしろ読みたくもないのに自然と聞こえてくる事はあるが・・・



マスターほど、自分に正直に生きている人間の“心の声”はあまり聞こえない・・・


むしろ、『今日は赤字だ』とか『ホストの気が緩んでる』などの簡単な声は度々聞こえてくるが・・・


ただ、マスターも所詮は人間。


知られたくない事もあるだろう。


だが、僕の力も万能ではないせいか、その者が強く心に秘めている声は聞こえない。


だから、マスターの事を全て知っている訳ではないし、知られたくない事もマスター自身から打ち明けられない限りは知る必要もないと考えている。




マスターに関してはそれで良いのだが、他の人間に関してはなかなか上手く行かなかった。


人間には感情を大きく分けて『喜怒哀楽』と言う言葉がある。


僕の力はその他人が強く思っている事程、はっきりと読めてしまう・・・


それが“喜び”・“楽しみ”ならまだ良い方だ。


だが、“怒り”・“哀しみ”などは読んでも気分がいい物ではない―――


むしろ、人間の見えてはいけない部分が丸見えで悲しくなる・・・




僕を捨てた両親のように―――



だから、僕は学校にも行かずにマスター以外の人間との接触を極力避けるのだった。