「少し話をしないか? せっかく会えたんだ」
月島さんはそう言うと、昌さんの背中にそっと触れた。
固まったまま、彼の顔を見上げていた昌さんは彼に促されるまま赤いベンチに腰を落とした。
昌さん……
そんな2人をただ見つめていたあたしは、慶介に差し出された手で我に返った。
「はい、チケット。……忘れてたろ」
「ま、まさか!!」
笑顔でそれを受け取るあたしに、慶介は疑いの眼差し。
すっかり、忘れてた……
「本当に、よく会うね」
その声に顔を上げると、アツシ君が片手を挙げて挨拶した。
ほんとに。
「俺が持ってるよ。また失くされちゃ困るからね」
「……え?だ、大丈夫だもん」
慶介が再びあたしの手からチケットを抜き取ると、悪戯な笑みを浮かべた。
「……昌さん…会えたんだね」
「ん?……うん」
アツシ君に声をかけると、なんだか彼はうわの空……と言った感じだった。
そりゃそうだよね……
もしかしたら、これで昌さんはあの月島さんと……
向かい側のベンチで、昌さんと月島さんがずっと話をしている。
その表情は真剣で……
時折膝の上で握られた昌さんの手に力が入るのが、なんだか悲しくて……
あたしは、2人から視線を逸らして顔を上げた。
ホテルやビルの間から見える青い空。
そこには、ちぎった綿菓子のような雲がちらほら浮かんでて。
吹き抜ける風が、難しい気持ちなんて
全部、吹き飛ばしちゃえばいいのにって……
――そう、思えたんだ。



