「……まさか……まさか、昌…なのか?」



突然背後で声がした。

その声に、昌さんはビクリと体を震わせた。

声のした方へ顔を上げると、そこには驚きを隠せない様子の月島さんが立っていた。



さっきのアツシ君の大きな声であたし達を振り返る人は何人かいた。
彼もきっとその1人。



月島さんは、確かめるように一歩一歩とその距離を縮めている。



「……」



……昌さん?



あたしも、アツシ君もただその様子をジッと見つめている事しかできない。
唇を噛締めて視線を泳がせていた彼女は、意を決したように振り返った。



「……あれ? どっかで会った事あったっけ?」


「……昌」



眉間にシワをよせ、首を捻る彼女。
そんな彼女の態度に少しだけ戸惑った月島さん。


昌さん、どうしてそんな事……?
あたしにでもわかるよ、彼がそうなんでしょ?



だけど、彼はフウッと深く息を吐くとこう言った。




「元気か? ピアノはどうだ?ちゃんと続けてるのか?
……まさか、こんな所で会えるなんて……偶然、だな」


「…………」




そう言って昌さんの顔を覗き込むように笑った月島さん。



胸がドキリと音をたてた。



少し遠慮がちに笑った顔。

下がった眉。

包み込むような低くて柔らかな声のトーン。



昌さんの胸の高鳴りが、あたしにまで届きそうな気がした。






彼が……
昌さんの探していた、月島宗次郎さん。