慌てて振り返ると、不思議そうにあたしを覗き込む慶介と目が合う。


「び……びっくりして…落っことしちゃった」


あたしは、苦笑いをして地面からバッグをすくい上げた。

怪訝そうに片眉を上げた慶介は、目の前の通りに視線を送る。
あたしは慶介の表情を恐る恐る伺った。


――どういうものなのかな?

自分のそっくりさんがいる、なんて。



でも、慶介の見た先はあたしが見ていた場所とは違っていた。



少しだけ、目を見開いて「あ」なんて呟いた。




……え?




あたしは背伸びをしながら慶介の背中越しに通りを覗き込んだ。



「……昌さん」



視界に飛び込んできたのは、まるで金縛りにあったようにその場に佇む昌さんの姿だった。
もちろん、昌さんの大きく見開かれたその瞳の先には“慶介のそっくりさん”。
――じゃなくてアツシ君の言っていた“月島”さんがいる。


彼女は、ずっといなくなった月島さんを探していた。


本当なら、今日……このハワイを発つはずだったんだろう。



でも、彼はいる。

昌さんの目の前で、アイスクリームを頬張っている。



あたし達の場所からは昌さんの表情はわからないけど、でも細い腕の先では小さな握り拳が震えていた。



「……昌ッ!!!」



黙って彼を見つめていた彼女の腕を掴んだのはアツシ君だ。

昌さんはアツシ君に掴まれた勢いでバランスを崩すように体を反転させて振り返った。



「……よかった…ここにいた。 またどっか居なくなっちゃったかと……」


「…うるさいな。 アツシのくせになによ」



昌さんはそう言うと、アツシ君に掴まれた腕を思い切り払い退けて、背を向けてこちらに向かって歩いて来た。



え?


……月島…さんじゃなかったのかな?




「……葵…ちゃん? 慶介君も……」


「あ…こんにちは」



あたし達に気が付くと昌さんは、固くなっていた表情を少しだけ和らげたようだった。