「プハァッ! 綺麗~!」


「うわッ」



海から顔を出すなり、あたしは慶介に飛びついた。勢い余ってよろめく慶介。


だって、すごいんだよ?


黄色や赤の色とりどりの小さな魚達。
彼らは、ピンク色の珊瑚に寄り添うように海の中で暮していた。

テレビではよく見る光景。


確かにテレビでも綺麗だし、素敵だなって思うけど……



「本物はぜんっぜん違うねッ」



興奮気味で飛びついてきたあたしの腕を掴みながら、慶介はほんの少し目を丸くして見下ろした。



「もう、あたしこの魚になりたい! だって、こんなに綺麗なとこに住んでるんだもん。……あ。でも待って?素敵なだけじゃないか。弱肉強食の世界が……」



ん?

…って、あれ!?



慶介が何も言わない事で、あたしは急に我に返り顔を上げた。

黙ってあたしを見ていたはずの慶介は、なぜか顔を背けてしまっている。




「……あの……慶介? どうしたの?」


「……」



あたしを掴んでいた腕がそっと離れる。



なに?


どうしたのよぉ?



「?」

「……ぶはッ」

「は?」



完全に背を向けるようにして体を九の字に曲げた慶介は、肩を震わせている。



「ッハハ。葵が魚……」




……あ、そ。


何も言わなかったのも、目を見開いてたのも、あたしをバカにしてたんですね!



「……そんな笑わなくてもぉ」



あたしはそう言うと、頬を膨らませてプイっと顔を背けた。



なによ! どうせ子供ですよぉだ!



「ごめん。 でも、我慢できなくて」



まだ可笑しそうに無邪気に笑って振り返る慶介。
目尻に溜まった涙を拭いながら、あたしに向き直った。