「すごーいッ!」



あたしは履いていたピンクのサンダルを脱いでそれを両手に持つと、海に向かって駆け出した。



「転ぶなよー」



後ろからはそんな声が聞こえる。




さっそく海に入ると、太陽の光に暖められた海水が肌を包む。
と言っても、水だ。

あたしは、背筋を伸ばしながら身を沈めて行った。


「冷た……」


「中にいた方が暖かいよ」


すぐ傍で声がしたと思ったら、慶介が水中マスクとシュノーケルを持って来ていた。
上半身裸の慶介に、目のやり場に困ってしまう。
こんなに明るい場所で、慶介の体を見るのは初めてのような気がする。
引き締まった体に、適度に筋肉のついた胸板。
厚過ぎず、薄すぎず……丁度いい体……。


って!!!

あた……あたし何考えてんだろッ!!

男の人の体見て、何考えてんだよぉぉおおッ


なんて、1人ツッコミながら赤くなった頬を両手で押さえると、あたしは慶介から顔を逸らした。


そんなあたしを面白そうに眺めていた慶介から道具の付け方を習った。
その姿が、会社にいた時の姿と重なる。

きっと、こうやって自分の部下達にも仕事教えて上げてるんだろうな。

綺麗な唇から、少しハスキーな低い声が聞こえる。

その声が、また大人の色気を出していて、あたしの脳内を溶かしてしまう。


あ~あ……

こんな声に、囁かれてたらきっと女の子はすぐに落ちちゃうんだろうな。


いいなぁ。 あたしにも仕事教えて欲しいな……



「……葵? わかった?」


「へッ!?」



うきゃあぁ!! 最悪ッ!!
あたしさっきから何してんだろ……


呆れたように、首を傾げた慶介は「また変な事考えてたろ」と言うと、赤く火照ったあたしの鼻を指で触った。
その仕草……その笑顔に目眩が起きる。


ドキンッ!


だ……ダメだ。 これきっと、欲求不満……




それを見透かしてか、なんなのか。
口角をキュと上げて悪戯に笑う慶介。



彼に手を引かれて、潜った海の中は陸よりもずっと色に溢れていた。