「きゃッ……」


頬に涙が伝った瞬間だった……。

あたしは、自分に何が起こったのかすぐに理解出来なかった。






なに…?


これ……




手首に感じる痛み。



重さ。




目の前には……慶介の顔。





息がかかりそうな距離であたしを見下ろす慶介は、片手であたしの両手を掴んだまま、それをゆっくりと上にずらした。


ドクン…





怖い…よ……






その敵うはずのない力に、勝手に体が震えだす。



『慶介? どうしたの』



心では、そう言っていても口からは一言も言葉が出てきてはくれなかった。




初めて慶介を怖いと思った。やっぱり“男の人”なんだ。優しくて、いつも余裕たっぷりの慶介。自分の感情は、表に出さない慶介。


その彼が……どこか思い詰めたようにあたしを見つめている。





その時、慶介の唇がほんの少し開いて、息を吸い込むのがわかった。




「……ん…」






唇に柔らかい感触……




強引で荒っぽくて、まるで本能のまましているような――…キス。

何度も何度も……角度を変え、深さを変えてあたし達は唇を合わせた。



それは、今まで感じた事のない……慶介だった。