もう、あたしの意識は目の前の、唇に釘付け。
ほんの少し開かれた薄い唇の奥に覗くその白い歯が、どんなモノよりも色気を感じる。
『キス』
もう、あたしの頭の中はその単語一色。
ドキン…
ドキン…ドキン…ドキン……
「………」
そして、あたしを見つめていた瞳が微かに揺れた。
苦しい。
早く、あたしを楽にして…
キス1つで、こんなに胸が苦しくなるなんて……
一瞬、慶介の唇がピクリと動いて、小さく息を吸い込んだのがわかった。
そして、ゆっくりと近づく……
あたしは自然に目を閉じた。
―――――………
―――……
「すみません。 そろそろ時間なんですが……ってあれぇ!?」
「…ッ!?」
デッキにすっとんきょうな声が響いた。
その声に反響するようにあたし達は、ガバッという感じで思い切り距離をとる。
あと数センチだったのに…。
またしてもオアズケかぁ!!?



