「……ォィ?……葵?」
気が付くと、目の前には心配そうにあたしを覗き込む慶介がいた。
さっきと変わらない、オレンジ色の空が慶介の肩越しに見える。
呆然としているあたしに、慶介はさらに顔を寄せた。
「……」
「大丈夫か?」
その優しい声に、急に安堵感が胸に広がっていく。
「…慶介……あたし…」
「唸されてた。 悪い夢でも見たのか?」
ゆ…夢?
そうか…夢…だったんだ。
「……覚えてないや」
あたしはそう言うと、慶介に笑顔を向けた。
あたしにはわかってた。
どうしてあんな夢を見たのか。
今の状況とリンクしすぎている。
あたし…不安なんだ。
慶介の気持ちに不安を抱えてる。
でも、あたし信じてるよ?
夢の中で慶介が言おうとした空白の言葉は、きっと……
「体調でも悪い? 今日のディナー、キャンセルしようか?」
「…え?」
その言葉に我に返り、慶介に視線を合わせる。
シャワーを浴びた慶介の体からは、石鹸のいい香りがする。
そして、すでに身支度は済んでいた。
ディナー・クルーズでは男女共に正装が基本。
正装と言っても、Tシャツにジーパンでなければいいと言う程度だ。
青のチェック柄のシャツに、黒のパンツ姿の慶介にあたしは慌てて飛び起きた。



