「先にホテル行って……」



そう言いながら振り返った慶介は、サングラスをとってあたしの顔を覗き込んだ。




「…どうした?」


「え…あ…あれ?」




いつの間にか瞳に溜まった涙が、慶介の心配した声に反応して、一滴頬を伝った。



感極まって泣きそうにはなったけど、まさか涙が出るなんて…



は… 恥ずかしいよぉ…




あたしは顔が火照っていくのを感じて、慌てて頬を拭った。



「……忙しいやつ」



小さな慶介の声が耳に届いて、あたしはハッとした。




……恥ずかしい。


きっと呆れられた。


もう…なんであたしってこうなんだろう?



これじゃ… 結婚する前と…


うんん。 高校生の頃と変わんないよ。





でも…見上げた先の慶介は、呆れてもなくて…バカにしてもなくて……




そっとあたしの頬に触れる大きな右手。

その手は、強引に涙を拭って少し赤くなった頬を優しく撫でた。




ドキン……



…ドキン ドキン ドキン




あたしを見つめるその瞳に吸い込まれそうになる。

どうして、こうも慶介はあたしの心を鷲掴みにしてしまうんだろう…



いつまでたっても慣れないなぁ…


きっと、何十年たってもあたしは慶介にドキドキさせられっぱなしなんだろうな。




「じゃ、行くか」


「う…うん」



頬に触れていた慶介の手は、呆気なく離れてしまった。



なんだ…

キス……されちゃうかと思った……



………ってぇ!!
あ、あたし…なに考えてんの!!



「ま… 待ってぇ」





あらぬ想像を掻き消して、少し先であたしを待つ慶介を追った。