ラジオからは、陽気なハワイアンミュージック。
車内は、それとは裏腹に微妙な雰囲気。
何も言わず、運転に集中する慶介。
逃げてる…絶対… 面倒だって思ってる。
あたしは、恨めしげにルームミラーに映る慶介を見た。
「葵…ちゃん?」
不意に名前を呼ばれ、声のした方へ顔を上げた。
「君たち結婚したって言ったけど……ごめんね、月島って名前?」
彼は、そう言うと真っ直ぐにあたしを見つめた。
その少し茶色かかった瞳に、なんだか落ち着かない気分になる。
「…違いますけど」
「そっか。 …身近な人にそんな名前の人はいないよね?」
「…いない…と思います」
一体なんなんだ。
その『ツキシマ』って人は。
不思議そうに首を傾げたあたしに、彼は慌てて笑顔を作った。
「ならいいんだ、ありがとう。俺、アツシ。 …それと敬語は使わないで。」
そう言うと「自己紹介遅れてごめんね」とも言った。
なんだか納得いかなかったけど、それ以上聞いてはいけない気がした。
「着いたぞ」
いつの間にか、車はある場所に来ていた。
そう言って、さっさと車を降りてしまった慶介を慌てて追う。
たくさんの駐車スペースの中に、車が何台も停まっている。
「…うわぁ」
石垣の先に見えた景色に、あたしは思わず息を呑んだ。



