ベランダの椅子に座っている慶介。
なんだか、その背中は物思いにふけっているようだった。
なにを考えてるんだろう…
そう思いながら、見つめているとタイミングよく慶介が振り返った。
「なあ…俺、ずっと引っかかってるんだけど」
「うん?」
「昼間会った男だけど…どっかで見た事ないか?」
夜景の中で慶介のシルエットが浮かび上がって見えた。
椅子に深く座って、煙草をふかしている慶介。
“昼間の男”って…あたしを助けてくれた彼…の事だよね?
「……そう…かな」
あたしは、彼の顔を思い出しながら宙を仰ぐ。
恥ずかしかったけど…見覚えはない。
あんなかっこいい知り合いはいないよ。
慶介は「そうか…」とぶつぶつ言いながら煙草を灰皿に押し付けた。
―――……?
慶介の知り合い?
でも…そう言えばあの時…あの彼は慶介の顔をジッと見つめていた。
そして、あたしが婚約者だと知ってすごく驚いてたし…
ん?
でも待って?
それって昌さんの時と一緒であたしを「妹」だと思っただけなのかも。
首元に手を置いて外をぼんやりと眺めている慶介。
なにか、思い当たる節があるんだろうか…
「…さて、と」
「え?」
うーんと伸びをして立ち上がった慶介は、あたしにチラリと視線を移した。
え?
え…?
なに?