“かわいい”の言葉に舞い上がっていたのはどうやらあたし1人だけだったようだ。


見上げた慶介の横顔は、なんとも複雑な表情をしていた。



「…?」



どうしたの?


あたしがそう言われる事が嫌なのかな?






あたしなら。



あたしなら……



慶介が素敵って言われたら嬉しいのに…
慶介は嬉しくないんだ。



「……あの」



そんな事を考えていると、不意に目の前の彼が口を開いた。



「俺、人を探してるので… 失礼します」



そう言うと、ペコリと頭を下げて彼はあたし達に背を向けて走って行ってしまった。




人…?


探してるって一体誰を…




そう聞きたくても、彼はもう人混みの中に消えていったあとだった。



なんとなく気まずくなったあたし達を残して……。









「腹減らない?」


その雰囲気を先に破ったのは、慶介だった。

顔を上げると、いつもの慶介がそこにいた。
目を細めて、優しい笑みを浮かべている。



「うん。減った」



安心して、大袈裟にお腹をさするあたしを見て、慶介のキュッと上がった唇から白い歯が零れた。


よかった…


やっぱり、あたしの勘違いだよね?




あたし達は、たまたま通りかかった小さなレストランを見つけた。

まさに地元のレストランといった感じで、入っているお客さんも日本人はいないようだ。