愛しい遺書

マナカはあたしの心を察したように明生には触れず、優しく言った。

「……そだね」

あたしはため息混じりで力なく言うと、マナカがプッと吹き出した。

「出た。キキの『そだね』。まぁね!簡単に諦めつく程の気持ちなら苦労しないよね。……いつか報われればいいけど……ダメだって腹決めた時はさっさと次行くんだよ!!キキはその気になればすぐいい男できるから!ね?」

「うん……ありがと。ごめんね?いつも同じセリフ言わせて」

あたしも少しだけ笑いながら言った。


報われたいと思った時点でこの恋は終わる。さっきの女のように。あたしも一度、明生に想いを伝えた事がある。何も知らずに。

明生に出会う前のあたしは、マナカのように恋愛に対してイケイケだった。相手の事を好きだと認識すると、言葉にせずにはいられなかった。

明生に出逢い、好きだと認識するまで、そう時間はかからなかった。それまであたしがしてきたように、明生にもストレートに気持ちを伝えた。

だけど明生の返事は、
「ワリぃな。その類の要求は叶えてやれねぇ」
だった。

その時がきっと諦めるチャンスだった。ダメなら「あっそ」でバイバイするはずだった。なのにあたしの口から出た言葉は
「ならそれでもいいや」
だった。その言葉にあたしが一番驚いた。

一応フラれたと認識があったあたしは、その日は一晩中泣いた。なのに次の日には何もなかったかのように振る舞う明生に、何もなかったかのようにあたしは抱かれていた。

そんな関係を続けてもう一年が経つ。その一年の間に、明生はマナカにも手を出した。あたしの親友と解っていながら。明生とあたしの関係を知っていたマナカは激怒して、結局未遂で終わった。

だからマナカは余計にも明生が嫌いなのだ。