愛しい遺書

歩道に設置してある灰皿に、吸いかけの煙草を捨てて、翔士は言った。

「どっちでもいーよ」

「じゃあ食ってくか」

「うん」

そしてあたしたちはブラブラとウィンドウショッピングを始めた。荷物を持つと言った翔士を、あたしは丁寧に断った。彼女のバッグを持つ彼氏。あたしはそれが好きじゃない。ショップの袋も一緒。彼氏に持たせるくらいならバッグを持つなと思うし、買い物もするなって思う。それを翔士に言うと、「男前だな」と言って笑った。

「でも、スーパーの袋は違うな……。沢山買った時とか持ってくれると、家庭的なカッコよさを感じる」

そう言うと、翔士は歩く足を止めた。

「……買い物してって家で食うか?」

「……それってあたしが今、スーパーの袋を持ってくれる男はカッコいいって言ったから?」

翔士は悪戯っぽく笑った。あたしもつられて笑った。



少し歩くと、車で販売している移動クレープ屋に遭遇した。生地の焼けるにおいや、クリームの甘い香りがそこらじゅうに漂い、あたしたちの食欲を刺激した。


「食いてぇな」

「……この臭い、ズルいよね」

「買うか?」

「うん。いいよ」

車に近寄ると、レジの側に『食品の衛生を考慮し、お持ち帰りは承っておりません』と書いた紙が張ってあった。

「買ったらすぐ食べろって事だよな」

「だろーね。でも今食べたら夜のご飯食べられないよ……」

「……じゃあさ、やっぱり晩メシの買い物してって家で食うか?」

翔士はさっきの事を思い出したのか、ニヤニヤしながら言った。あたしは笑いながら頷いた。



ワンピのお礼にあたしが会計をして、歩道のベンチに座り食べた。いつ見ても美味しそうに食べる翔士を、見るのが楽しみになっていた。街中に鳴り響くチャイム。それは午後6時を知らせる音。夜は徐々に迫ってくる。それと共に明生に対する罪悪感も少しずつ大きく膨らんでいた。

帰りたくない……。

帰れば必ず顔を合わせなきゃいけない。

どんな顔で会えばいいんだろ……。

あたしはクレープに包まれたアイスが溶けて滴り落ちるのを漠然と目で追いながら、明生の舌打ちを思い出していた。