愛しい遺書

「キキ!」

あたしたちに気付いたマナカがピョンピョン跳ねながら手を振った。やっとマナカたちの所へたどり着くと、マナカと梗平は「イエーイ!」と言ってグラスを高く上げた。あたしは2つのグラスに自分のグラスを合わせた。翔士もテーブルに置いた自分のグラスを掴むと4人でグラスを合わせ、改めて乾杯した。

「マジすげーな!こんな本格的だとは予想外だった」

梗平が興奮気味に言った。

「ね!だから言ったでしょ!キキの歌は聴く価値があるって!」

マナカは自分の事のように自慢気に言った。

「そんな大袈裟な……」

あたしは照れを隠すように、煙草に火を付けながら言った。

「こいつなんかスゲー、スゲー連呼してたし」

梗平が茶化すように、翔士を指差して言った。翔士は口に含んだ酒を吹き出しそうになるのを抑え、

「マジですげかったし!」

と少しキレ気味に言った。

あたしたちはステージで歌っているグループそっちのけでお喋りしていた。

「すみませ〜ん」

後ろから話し掛けられて振り向くと、

「写メ撮ってもいいですかぁ?」

と見知らぬ男女数人に声を掛けられた。店以外で歌う事のないあたしに、常連客を除いては認知度はないに等しい。でも、こうしてステージに立った日だけあたしは時の人になる事もある。一度は丁重に断るものの、どうしてもという客には一応仕事の一貫として、店の宣伝の為に客の要求を飲んだりする。何度か向けられた携帯のカメラにあたしはずっと愛想笑いし、やっといなくなると渇いた喉を潤す為に、グラスの酒を一気に飲み干した。

「お酒まだ入ってる?あたし持ってくるけど」

「じゃあ、あたしレッドアイ。梗平は?」

「オレ生。」

「翔士は?」

「オレ一緒に行くよ」

吸っていた煙草をもみ消し、空いたグラスを重ねながら翔士は言った。

「ありがと」

翔士は重ねたグラスを片手に持ち、もう片方の手であたしの手をしっかりと掴み、カウンターへ向かった。



カウンターに肘を付き、酒を頼んで待っている間、あたしは辰くんに話し掛けた。

「大丈夫?忙しくない?」