愛しい遺書

時々背伸びしながらマナカたちを探していると翔士があたしに気付き、あたしの所へ向かって来た。あたしは翔士の元へ向かった。人混みに押されながら少しずつ進んで行くと、翔士の伸ばした手に届いた。その時、かなり上機嫌にはしゃいでいた客があたしに勢い良くぶつかり、あたしは大きくよろけた。咄嗟に翔士の手を強く掴むと、翔士はあたしを素早く引き寄せた。客はすまなそうにペコリと頭を下げると、また踊りだした。

「大丈夫?」

翔士は心配するように言った。

「うん。ありがと」

もし翔士が傍にいないと、あたしは転んでいた。あたしは心から翔士に感謝した。翔士はあたしを引き寄せたまま、耳元に口を寄せた。

「いつ見ても可愛いな……」

あたしは恥ずかしくなって照れ笑いした。

「ありがと……」

「梗平たちんとこ行こ」

そう言って翔士はゆっくりと体を離した。あたしははぐれないようにしっかりと翔士の手を掴み、ついて行った。途中、誰かが故意的にあたしの尻を掴んだ気がして、あたしは驚いて振り向いた。

明生だった。

あたしはかなり動揺して、翔士の手を離してしまった。明生は翔士とあたしを冷やかすような目で、ニヤニヤしていた。

「この子も明生の〜?」

そう言って明生に話し掛けたのは、約束していたはずのクミではなく、違う女だった。

どうして?あの子は……?

あたしは不思議に思ったが、明生を見つめたまま何も言えなかった。

「あんまり見ちゃダメ〜!今日はあたしの!」

明生の隣にいた女はあたしの視線を遮るかのように明生に抱きついた。

「キキ?」

翔士は離れてしまった手をもう一度強く掴んだ。あたしはやっと我に返った。

「どした?」

不思議そうにあたしの顔を覗き込む翔士に、あたしはなんでもないと言うように首を横に振った。

「またよろけちゃった……」

あたしは誤魔化した。

この手の嘘を、あたしは翔士に何度ついただろう。そして翔士は何度騙されてくれたことだろう。

「そっか……」

翔士はそう言ったものの、あたしを通り越した視線の先には明生がいる事を、その目に映し出していた。