愛しい遺書

10時少し前になると、また第二陣がドッと入ってきた。あたしは客の対応に追われ、結局出番まで翔士とは一言も会話する事がなかった。それでも何度か感じる翔士の視線にあたしは何度も応え、その度に翔士は嬉しそうにはにかんだ。

「キキちゃん、そろそろだよ」

フミカさんが交代しに来た。あたしは席を外し、ステージに向かった。

ホールと化した店内は梅さんが回す曲で既に盛り上がっていた。ステージに上がったあたしを客は一瞬だけ注目したが、すぐにまた思い思いに踊りだした。梅さんはあたしと目でコンタクトをとると、流していた曲をフェードアウトした。

ショータイムの始まり。

1曲目はあたしのテーマソングとしてる「What A Wonderful World」レゲエバージョン。アカペラから入り、追いかけるように梅さんがトラックをフェードイン。

「LOVE,NEED AND WANT YOU」

「Get Busy」

「Turn Me On」

少しずつアゲアゲな曲に繋げていき、ホールはいつの間にかスチームのような熱気に包まれた。

一世代前のアツいレゲエを今の世代に広めたい。梅さんのそんな願いに、今日の客はとても従順だった。

ラストは「Pon de replay」。

ホールは最高に盛り上がり、次の出番のグループに繋げる事ができた。あたしはステージを下りるとまっすぐカウンターに行き、喉の為に我慢していた酒を今日初めて頼んだ。

「お疲れさま」

久世さんは自分の飲んでいるグラスをあたしのグラスに合わせた。

「どうでした?」

あたしは酒を口に運びながら言った。

「サイコー」

そう言って久世さんは手をグーにした。

「ありがとうございます」

あたしも手を握り、久世さんの手に合わせた。

「しばらくゆっくりしてていいよ。ヤバくなったら声掛けるから」

久世さんはそう言うと、また客のオーダーした酒を作り始めた。あたしは素直に甘える事にし、すし詰め状態になっている客を掻き分けながらマナカたちを探した。