愛しい遺書

「……ありがと」

あたしはこのパッツン前髪が似合ってるという事より、明生の腕を誉められているようで嬉しかった。だけど翔士に言われると、罪悪感のような感情が生まれた。別にまだ何も始まってはいないのに。

「どっか飲みに行く?」

「いや、いいよ。明日の為に早く上がったんだろ?」

「そうだけど……いつまでもここにいても……ねぇ?」

「だよな……」

「……うち来る?明日休みなんでしょ?」

「いいの?なんか、押し掛けたみたいでわりぃな……」

「せっかく来てくれたのに、ここで帰ってっていう方が逆に悪いよ」

「……ありがとな」

そう言うと翔士は車を走らせた。

駐車場に着くと、翔士の車をあたしの車の隣に止めてもらった。わかっている事だけど、明生はいない。あたしは部屋の鍵を開け、翔士を通した。

「明日、忙しいんじゃねぇの?」

リビングのソファーに腰掛けながら、翔士は言った。

「そうでもないよ。パーティーの日はスタッフ総出だし、あたしは歌うのメインだから、打ち合わせで早く店に入る分、上がるのも少しだけ早いんだ」

あたしは冷蔵庫からビールを出し、つまみになりそうなものをあさりながら言った。

「そーなんだ」

カウンターにビールをあげ、皿にスモークチーズを乗せ、サラミをスライスしていると、翔士はカウンターの椅子に腰掛けた。

「しかし広いな、この家」

辺りを見渡しながら翔士が言った。

「翔士ん家の方が広いじゃん。一軒家なんだから」

「まあな、無駄に広い」

つまみをカウンターに上げると翔士の隣に座り、乾杯した。

「越して来てよ。……オレん家に」

予想外の発言にあたしは普通に戸惑った。

「なんてな」

気まずい空気をかき消すように、翔士は明るく言った。あたしは笑って誤魔化した。

普通に世間話で盛り上がり、棚に並んでいるあたしのDVDのコレクションの中から、翔士が前から見たかったというヤツを選び、再生した。

翔士と会うのは今日で2回目。なのに付き合いの長い友達のような、自然体で翔士といられる事に、あたしは居心地の良さを感じていた。