愛しい遺書

「マジムカつく!あいつ何様なわけ!?」

マナカはあたしが明生を愛しているのを知っている。だから余計にも許せないのだ。

「キキみたいな顔も性格もいい女なんてなかなかいないのに、他の女たちとごちゃ混ぜにするなんて……ああ!イラッとする!!」

「……そんな間近で言われると恥ずかしいんだけど。………仕方ないよ解っててそれでも離れられないのはあたしの方なんだから……」

マナカは悔しそうにしている。次の言葉が繋がらなくて、少しの間沈黙が続いた。



「アンタあたしのことバカにしてんの!?」

さっきまで嬉しそうに明生に腕を絡めていた女が急に大きな声を上げた。

あたしとマナカはビックリしてこっそりと二人の様子を伺った。

「オレ最初に言ったよね?誰のモノにもなんねぇって」

ジーンズのポケットに両手を突っ込み、肩をすくめながら明生が言った。

「憶えてるよ!!だけど………いつかは彼女にしてくれるかもって………期待しないわけないじゃん………」

あーあ………この女、今日で終わるな………。
同じ女として同情できるが、敵は少ないに限る。そう思うと少しだけ安心した。

「この2ヶ月の間、少しでもあたしを好きだって思ってくれてた……?」

女は縋るように言った。もし明生がここで首を縦に振ったら、例え今日の夜ひとりぼっちで眠るハメになっても安らかに眠れるだろう。

明生、アンタ今日でこの女とサヨナラでしょ?最後くらい優しい言葉かけてやりなよ……。

ベタな表現だが、参観日で自分の子供を見守る母親の気分だった。

明生はジーンズのポケットから煙草の箱を出し、一本取るとくわえながら言った。

「オレにそんなこと求められても無理だって。好きって何よ?……オレ愛し方知らねえんだ」

そう言いながらくわえてた煙草に火を付けようとした時、


―バンッ!!


女の手に持っていたバックが明生の左頬を直撃した。明生の唇に軽くはさまれていた煙草は宙を舞った。

「もっとうまい言い訳出来ないの!?」

激しく叫ぶ女に物怖じせず、明生は殴られた方の頬をポリポリと掻いた。