「いつかは諦められるのかな……」

あたしは力なく言った。

「そればかりはなんも言ってやれねぇよ。自然に離れる日がくるかもしれねぇし、逆にそいつの方がキキちゃんから離れられなくなるような奇跡が起きるかもしれねぇし。なるようにしかならねぇだろ」

久世さんは車をあたしの部屋の真ん前に停めた。

「頑張れよ。つうか、楽しめ!まだ若いんだから、気楽に考えろよ」

そう言ってあたしの頭を優しく撫でた。

「久世さん、すみませんでした。送って貰った挙げ句に愚痴まで聞いてもらっちゃって……」

「気にすんな!明日休みだろ?ゆっくり休めよ」

久世さんは微笑みながら言った。あたしはお礼を言って、車を降りた。

久世さんの車が走り去るのを見届けると、おぼつかない足で玄関まで歩いた。ドアの前でバッグに手を突っ込み、部屋の鍵を探していると、

「お前、酔ってんの?」

と背後から聞こえた。

誰かと会うような時間じゃない。尋常じゃないくらい驚いて振り向くと、明生が立っていた。

「……何で?……こんな時間に……」

「……ちょっとな。オレも今帰って来て車止めたら、ちょうどお前ら入って来たから」

「そう……。じゃあ、おやすみ……」

どんなに酔っていても、明生に素を見せてしまった事だけは鮮明に覚えている。あたしは恥ずかしくなって明生に背を向け、鍵を探した。なのに鍵はなかなか出て来ない。すると明生は自分のキーケースに付けているあたしの部屋のスペアキーでドアを開けた。

「……ありがと」

中に入ろうとして、ドア枠につまづきよろけたあたしを明生はすかさず掴み、ゆっくりと座らせた。

「もう大丈夫だよ……」

靴を脱ごうとすると、明生があたしの前にしゃがみこみ、靴を脱がせてくれた。あたしは明生の優しさに戸惑いながらも、

「ありがとう」

と、もう一度言った。

明生は立ち上がると自分もスニーカーを脱ぎ、お姫さま抱っこであたしを抱え、リビングまで運んでくれた。そのままソファーに座らせ、電気を付けるとキッチンに行き、グラスに水を入れてあたしに持たせた。