明生につい本音を漏らしてしまった昨日、仕事を終えて家に帰ると明生の車の隣に一緒だった女の車が泊まっていた。部屋を見ると、寝室の灯りはダウンライトではなく、ベッドの脇にあるスタンドが控えめに光っていた。あれは明生が女と絡まっている証拠。あたしは悔しくて、朝日が完全に登っても眠る事が出来なかった。





『めざましテレビ』が子守唄代わりになったのか、いつの間にか寝ていた。目が覚めると夕方の最新ニュースの番組に変わっていた。シャワーを浴び、メイクをして、夕食をとり、部屋を出た。女の車はなかった。そして、明生の車も。

店はいつも通りまあまあ潤っていて、客と話している時だけは昨日の事を忘れる事ができた。だけど会話の途中に起きる沈黙が、あたしを切ない感情の渦に引きずり込もうとする。その度にあたしは酒を口に運んだ。今日の酒はあたしを麻痺させた。

「キキちゃん、大丈夫?……なんか今日、荒れてるね」

酒の力で変なテンションになっているあたしに久世さんは気付いていた。

「大丈夫です!今日は飲みたい気分だったので」

あたしは明るく振る舞い閉店を迎えたが、客が全て退けて店内が静かになると、急に酒が身体中を回り、フラフラになっていた。

「送ってくよ」

久世さんはあたしを気遣って、あたしが崩れないように肩を抱き、駐車場へ向かった。あたしは優しくしてくれる久世さんに心をゆるし、

「久世さん……むくわれないと解っていても、嫌いになれない人を吹っ切るにはどうしたらいいんですか……」

と呟いた。

久世さんは何も言わず、あたしを車の助手席に乗せた。車だとあっという間に家に着く道のりを、久世さんはわざとゆっくり走った。

「それでもいいと思えるうちは、無理に吹っ切らなくてもいいんじゃない?」

久世さんは静かに言った。

「諦められないのは、そいつとの間にどんなに小さくてもちゃんと幸せを感じてるからじゃねぇの?」

「……」

あたしは首を縦に振った。