愛しい遺書

「キキは彼氏いんの?」

あたしの名前からはいつのまにか『ちゃん』が取れていた。

「いないよ」

「即答だね。マジでいねぇの?」

「うん。でも好きな人はいる」

「……やっぱり」

「でも叶わないの」

「なんで?」

「……」

「まさか……不倫!?」

「違うよ」

「EXILEとか言わねぇよな?」

「アハハ!何それ?」

「大分前にそう言われてフラれた」

「そんな人いんの!?」

「マジありえねぇよな!……まぁ相手にしてみたら遠回しに断ったつもりだろうけど……マジありえねぇよな!」

「ありえない!ウケんだけど!」

「…んで、その好きな人は今日なにしてんの?」

「……わかんない。さっき海で見かけたけど、女捨てて一人で帰ってった。……多分、他の女のところかも……」

「マジで!?捨てたって、その女どうやって帰ったの?」

「歩いてたよ。海沿いを1人で」

「……あっ!!いた!!あの白いロングコート!」

あたしは酒を口に含みながら頷いた。

「あれ、そうだったのかよ。カイなんて幽霊だってマジ泣き入ってたし!!」

「アハハ!」

あたしとショウジは少しの間マジ笑いしていたが、そのまま沈黙の空気に変わった。

「……つらい恋してんのな……」

ショウジがボソッと言った。

あたしは笑うフリしかできなかった。

「……もしさ、オレが今日キキと朝まで一緒にいたいって言ったら……いや?」

口説きモードに入ったのはなんとなく感じていたが、あまりのストレートぶりにあたしは少し驚いてショウジの顔をマジマジと見つめた。

この人は明生じゃない。それでもいいの?

いつのまにか切なさよりも酒の割合が多く占めていた体に朦朧としながら自分に言い聞かせた。

ショウジは唇の片方を上げながら、あたしの顔を覗き込んできた。

……やめて。その仕草を今やられたら……。

どうしよう……。

どうしよう……。


「マジあちぃ!!」

カイとケンタがシャツの襟元を掴み、パフパフと空気を入れながら近づいてきた。

あたしは少しホッとした。