愛しい遺書

クラブまでの道のりはそう遠くない。たわいない話をしながら歩いてると、あっという間に着いた。

入り口でチケットを買う為に財布を出すと、B‐BOYの中の一人が
「いいよ。今日は俺らのおごり!」
と言って、あたしたちの分も払ってくれた。

カウンターで酒をもらい、ボックスにみんなで座った。

「んじゃ、今日の出逢いにルネサーンス!!」

さっきからずっと盛り上げ役に扮している一人がベタな髭男爵で音頭をとった。マナカもあたしも少々引き気味に笑ったが、周りもそれに合わせて「ルネサーンス!!」と叫んだから、あたしたちもそのノリに合わせた。

一人ずつ自己紹介が始まった。先にメンズ。

「カイです!22です!」

「キョウヘイです!24です!」

「ケンタです!23です!」

「ショウジです!24です!」

そしてあたしたち。

「マナカでーす!22です!」

「キリコでーす!22です!」

B‐BOYたちはみんな同じ職場で、型枠大工をしているらしい。どうりでみんな体格がいいわけだ。

「マナカちゃんは何やってんの?」

「あたしはショップで働いてるんだけど、女の子の服のデザイナーもやってる」

「マジで!?すげーな!!」

「キリコちゃんは?」

「あたしはバーで働いてる」

「お水?」

「そう」

「キキはね、専属のシンガーなんだよ!!」

「キキっていうの?」

「ちっちゃい時からのあだ名」

「どこのバー?」

「Love・Mania……でも歌うのはイベントがある時だけ。普段はカウンター入ってお酒作ってる」

「それもすげーな!!でも今日は休みなの?稼ぎ時じゃねーの?」

「月一回はローテーションで休みなの」

盛り上げ役のカイ(21)がどんどん運んでくる酒をガンガン飲みながら一時間程しゃべり続けた。

「あたしトイレ行くけど、キキは?」

「あたしも行く」

堅い椅子に長い間座ってると尾てい骨が痛くなる。マナカの誘いはちょうど良かった。