愛しい遺書

「キキ!!ちょっとあれ見て!!」

マナカが慌てるように言った。

「キキにも見えてるよね!?あれ、人だよね!?」

ワケが分からないまま、あたしはマナカが指差す方を見た。

高いヒールの靴を履いているせいなのか、足を縺れさせながらグラグラと海沿いを歩く女の姿があった。

「あれ、さっきの女じゃね!?」

そうだ。明生が捨てた女だ。

髪の毛を振り乱し、一生懸命歩いていた。

「ウケんだけど!!あいつ絶対明生が拾ってくれるって思ってるんだよ!!」

マナカはハンドルを叩きながら笑っている。

あたしは少し同情していた。

普通の男女なら女がこういう状況にある時、男は間違いなく後を追うだろう。この女もそれを期待していたはず。

でも明生は追わない。

普通じゃないから。

そして明生が普通じゃない事を、この女だって知っていたはず。自分も明生と同じく普通じゃないと思う事で対等だと今日まで勘違いして。

残念だけど、明生は追って来ないよ……。

追い越しながら振り返って女の顔を見ると、マスカラが溶けた黒い涙を両目から流し、かかって来るはずがない携帯をじっと睨みながら歩いていた。

携帯のディスプレイが発する光りがグチャグチャになった女の顔を蒼白く照らしていた。

「アハハ!!貞子かよ!?マジこえーし!!」

マナカは更に爆笑した。

あたしは未来の自分と重ね合わせてしまって、素直に笑えなかった。



市内に入ると急に車も多くなり、さすが週末だけあって繁華街はギャルやらお水やらオッサンやら様々なジャンルの人間で華やいでいる。

あたしたちは行き付けの駐車場に車を止めた。ここは深夜0時を過ぎると受付の係員がいなくなる。それでも宿泊料金を払って止めている車の為に、入り口を常に解放している。

マナカは控えめに一番奥に車を入れた。

ピッタリと後ろをついてきたB‐BOYたちもマナカの横に入れた。

あたしたちが車から降りるとB‐BOYたちも全部で4人降りて来た。