◆……
学校から徒歩30分。
約2キロメートル歩いた所に、私の実家“坂桑家”がある。
私が言うのもアレなのだが、かなり家は大きい。
家というより、屋敷。
そんな屋敷の門をくぐり、玄関までを急ぐ。
玄関の戸を、ガラガラと滑らせ開ければ、和装の数人のお手伝いさんが「お帰りなさいませ、お嬢様」とにっこりと言うのだが。
「私に構わなくていいから。仕事をして」
とにかく鬱陶しい。
一々、声を合わせて言うものなのか、ソレは。
とりあえず、自室に足を運ぶ。
それほど、歩くのが遅いわけではないが、まったくといっていいほど自室に着かない。
なんなのよ、この無駄に長い廊下は。
タツキの仕事――塾講師は、結構帰りが遅くなってしまう。
そのため、タツキが休みの日以外、毎日、実家に帰っているのだ。
塾が終われば、私を迎えに来て一緒に帰るのが習慣だが、どうもこの長い廊下だけは、いまだに慣れない。
廊下に対しての文句をつらつらと並べていると、足元が急にくすぐったくなった。
ぱっ、と足元を見れば、ふっさふさの灰色がかった毛に特徴的な小さな耳の猫――ペルシャネコの“コマチ”が私の足にまとわりついている。
コマチは、この屋敷に7年ほどいるのだが、その風貌からかいまだに馴染まない。
名前だけは、和風にしてみたけど。
しゃがんでコマチの頭を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らし気持ちよさそうに目を閉じる。
「コマチ」
呟くように名前を呼べば「ニャー?」と可愛く鳴く。
「部屋に行こっか」
コマチに話し掛けながら、再びこの長い廊下を歩いた。

