「………千紗っ!!」

 声に釣られて目を開ければ、ブレザーを脱ぎ、ネクタイを緩めた雄太郎の姿。

 走って探してくれたのか、汗ばんでいる。

「……ゆう、た、ろう……」

「アンタ、人の女に何してくれちゃってんの?」

 雄太郎は、私を抱き寄せながら、ことさら冷たい鋭い声で言い放った。

 佐野は、刺々しい雄太郎に怯みもせずクスクスと笑い始める。

「君が噂の林くんかぁ。人の女って、千紗は僕のモノなんだけど」

「別れたんだろ。いい加減、付き纏うのやめとほしいんだけど」

「ふっ。付き纏う?僕が?」

「………私はあなたと別れたの。お願いだから、付き纏わないで。
私は今、この人と付き合ってるんだから」

 振り絞って出した声は震えていて、力強さはない。

 それでも、下から睨み上げる私を見て佐野は「覚えといてね」と囁いてから、その場を去った。