「『昔から愛してる』って?」

「知らないの?初恋ではないけど、私が知ってるかぎり、って言っても日本にいた時までの話なんだけど。
ちぃの最新の恋はタツキよ。
言ったじゃない。私がちぃの恋を叶えるって。人の話、聞いてなかったの?」

「いや、聞いてたけど……」

「でも、小学5、6年生で8歳年上の姉と同い年の男(ひと)に恋が芽生えるなんて。
………私はありえないわ」

 薄く化粧が施されている目元を糸の様に細め、優雅に首を横に振る。

「そ、そうか?まぁ、その話はいいから。たぶん、もう下にタクシー来てるよ」

 柱時計に目を向けながら、紗葉にそう促せば「そうね、ありがとう」と微笑んだ。

 玄関で一度振り返った紗葉は、柔らかく微笑んで、右手を差し出す。

 きっとフランスの文化なんだろうな、こういうの。

 俺の右手を重ね、軽いハグ。

「ちゃんと仲直りしてよね」

「はいはい」

 適当に返事をして、ドアを閉めた。