「ねぇ、知ってる?エイゴくん俳優デビューするんですって」
「エイゴって……」
「私の良き理解者」
ああ、良き理解者、ねぇ。
坂桑家がせっかくこぎつけて紗葉と婚約させた資産家の息子――宮藤英悟(くどうえいご)。
宮藤英悟は紗葉に惚れてたみたいだけど、自分から婚約を破棄し、快く紗葉を見送った。
「実際問題、どうなんだ?」
「相変わらず意図の掴めない質問ね」
「あー、なんだっけ。紗葉の旦那の名前」
「サン=マーティン」
「そうそう。だから、そのサンと宮藤英悟、結局どっちが好きなわけ?」
クスリ、と目を細め昔を懐かしむように微笑み、一口お茶を啜る。
湯呑みをテーブルに置くコトリと小さな音の後、「そうね」と静かにそのぷっくりとした唇を動かした。
「英悟くん、かしら……」
「サンがかわいそうだな」
質問の答えに俺は『サン』と言うと思っていたもんだから。
予想外の、でも紗葉らしい解答に一瞬怯んでしまい、そう言うしかなかった。

