「こっちに来ないで」
「え?」
「……嫌なのよ。香水の匂いって。集中できないのっ」
「あ、ごめん」
基本的に香水を使わない俺から香水の匂いがするってことは、さっきの奏子さんの所為。
なるべく千紗の近くには寄らないように、なおかつそんな遠くない位置に椅子を引っ張り、座った。
「……その位置ムカつく」
「え?何で?近すぎず、遠すぎず、いいキョリだと思わない?」
「だから、ムカつくのよ。怒るにも怒れないじゃない」
「いいじゃん」
「……何がいいのよ」
少し目を細めて俺を見た後、耐えられなくなったのか、ふふっと上品に笑ってみせた。
ああ、この顔。
不意に見せるこの笑顔がたまらなく好き。
そういえば、俺っていつから千紗のこと好きだったんだろう。
『許婚』として改めて紹介してもらった時、俺は大学4年で千紗が中2だったかな?
その時、俺はまだ彼女と別れたばっかりだったんだっけ。

